医院向け|歯科衛生士はクビにできる?スタッフ解雇の際の注意点とは
2024.09.11歯科医院の経営において、優秀なスタッフの確保は重要な課題です。しかし、採用した歯科衛生士が期待通りの働きをしてくれない場合、クビにせざるを得ない状況も出てきます。
歯科衛生士をクビにする際には、正当な理由が必要不可欠です。また、クビにする際の手続きを誤ると、不当解雇として訴えられるリスクもあります。
本記事では、スタッフをクビにする際の正当な理由と、適切な手続きについて解説します。
歯科衛生士を試用期間中にクビにすることは可能?
まず、試用期間の最初の14日以内なら、正当な理由がなくても歯科衛生士を含む従業員をクビにすることができます。14日を超えてクビにしたい場合は、一定の条件の下で可能です。条件としては、勤務態度が著しく悪かったり欠勤が多かったり、経歴を詐称するなどが挙げられます。ただし、以下の点に注意が必要です。
- 試用期間中の解雇は、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要
- 就業規則に試用期間中の解雇について明記しておく
- 本採用拒否の場合、30日前までに予告が必要(予告手当の支払いでも可)
- 解雇理由を丁寧に説明し、不当解雇にならないよう配慮する
適切な手順を踏まえることで、試用期間中の歯科衛生士のクビは可能ですが、慎重に判断し対応することが求められます。
参考:東京労働局「労働基準法」
歯科衛生士をクビにする正当な理由とは
歯科衛生士をクビにする際は、正当な理由が必要です。主な正当理由は以下の3つです。
- 技術・能力の不足
- 勤務態度の悪さ
- 経営上の必要性
それぞれの理由について詳しく見ていきましょう。
技術・能力の不足
一定期間、教育・指導を行っても改善が見られない場合は、解雇を検討することもあるでしょう。
技術・能力の不足による解雇は、「普通解雇」に該当します。普通解雇とは、労働者の能力不足や勤務態度の悪さなど、労働者の個人的な理由に基づく解雇を指します。
普通解雇を行う際は、労働者の個人的な事情に配慮しつつ、客観的な評価と合理的な理由に基づく必要があります。また、不当解雇となるリスクを回避するため、適切な手続きを踏むことが重要です。
勤務成績不良の判断基準とは
歯科医院での勤務成績不良の判断は、単に技術面だけではなく、さまざまな視点から評価しましょう。具体的には以下のような点が挙げられます。
- 業務遂行能力
基本的な歯科治療の補助業務を適切にこなせているか
患者への説明・指導が適切にできているか
- コミュニケーション能力
患者とのコミュニケーションが円滑にとれているか
院長や他のスタッフとチームワークよく働けているか
- 勤怠状況
遅刻・欠勤が多くないか
休憩時間のルールを守れているか
以上のような総合的な評価の下、一定期間努力が見られない場合は、勤務成績不良と判断されクビにすることが可能です。
勤務態度の悪さ
歯科衛生士の勤務態度が著しく不良で、改善の見込みがない場合にクビにする際は懲戒解雇となります。事前に就業規則に懲戒解雇の規定を設けておくと良いでしょう。
具体的には、以下のような場合が懲戒解雇の対象となります。
- 無断欠勤を繰り返す
- 勤務中に私用を行う
- 患者や他のスタッフに対して暴言や暴力を振るう
- 医院の機器や設備を故意に破損する
- 医院の規則や指示に従わない
懲戒解雇は、歯科衛生士の勤務態度が改善される見込みがない場合の最終手段です。安易に懲戒解雇を行うと、不当解雇として訴えられるリスクがあるため、慎重に判断する必要があります。
経営上の必要性
経営上の必要性から歯科衛生士をクビにする場合は、整理解雇となります。
整理解雇とは、会社の経営上の理由により、余剰人員を解雇することを指します。具体的には、以下のような場合が該当します。
- 事業の縮小・転換・閉鎖等により、人員削減が必要となった場合
- 事業の合理化・効率化により、人員削減が必要となった場合
- 経営状態が悪化し、人件費の削減が必要となった場合
ただし、整理解雇を行う際は、以下の4つの要件を満たす必要があります。
要件 |
詳細 |
解雇の必要性 |
人員削減の必要性が客観的に認められること |
解雇回避努力 |
解雇を回避するための努力を尽くしたこと(配置転換、出向、希望退職の募集など) |
人選の合理性 |
解雇対象者の選定が合理的な基準に基づいていること |
説明・協議 |
解雇対象者に対して十分な説明を行い、協議を尽くしたこと |
これらの要件を満たさずに整理解雇を行った場合は不当解雇となるリスクがあるため、注意が必要です。
歯科医院経営において、やむを得ず歯科衛生士を整理解雇する場合は、上記の要件を満たすよう、慎重に進めることが求められます。
歯科衛生士をクビにする際の注意点
歯科衛生士をクビにする際は、さまざまな点に注意が必要です。
- クビの理由の明確化
- クビ前の指導・教育の実施
- 不当解雇にならないようにする
- 解雇理由証明書を発行する
- 解雇の30日以上前に解雇通告を出す
以上の注意点について詳しく見ていきましょう。
クビの理由の明確化
歯科衛生士をクビにする際は、解雇理由を明確にすることが重要です。曖昧な理由では、不当解雇と判断される可能性があります。クビにする正当な理由としては、前述した「技術・能力の不足」「勤務態度の悪さ」「経営上の必要性」などが挙げられます。
これらの理由に当てはまるかどうかを慎重に見極め、客観的な事実に基づいて判断することが大切です。クビにする際は、解雇理由を具体的かつ明確に説明できるようにしておきましょう。
クビ前の指導・教育の実施
歯科衛生士をクビにするのは最終手段です。クビにする前に、歯科衛生士の技術・能力や勤務態度を改善するための指導・教育を十分に行うことが大切でしょう。
定期面談で課題を明確にし、教育・研修プログラムやOJTで技術向上を支援します。改善計画を作成し、進捗を確認しながら着実に実行しましょう。
改善が見られない場合は警告を行い、最終手段としてクビを検討します。ただし、その際は適切な手続きを踏み、不当解雇にならないよう注意してください。
不当解雇にならないようにする
不当解雇とみなされる主な条件・解雇理由は、客観的な合理性の欠如、社会通念上の不相当性、解雇手続きの不備、労働者の権利侵害、差別的な解雇などがあります。
不当解雇と判断された場合、医院は解雇の無効、未払い賃金の支払い、慰謝料や損害賠償の支払いを求められる可能性があるため注意しましょう。
歯科医院が歯科衛生士をクビにする際は、解雇の合理性と社会的相当性を十分に検討し、適切な手続きを踏まえることが重要です。
解雇理由証明書を発行する
歯科衛生士をクビにする際は、解雇理由証明書の発行など法的手続きを遵守することが重要です。労働基準法第22条では、労働者の請求に応じて使用者が解雇理由を証明する義務が定められています。
解雇理由証明書には具体的な解雇理由を明記する必要があり、曖昧な理由では不当解雇と判断される可能性があります。証明書の発行は、解雇の正当性を証明し、トラブルを未然に防ぐ役割を果たすためとても重要です。
適切な手順を踏まずに解雇を行うと、不当解雇として訴えられるリスクがあるため、法的手続きの遵守は円滑な歯科医院経営に欠かせません。
解雇の30日以上前に解雇通告を出す
労働基準法第20条では、使用者は労働者を解雇する場合、少なくとも30日前に予告をしなければならないと定められています。30日前に予告をしない場合、解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。これを適切に行わない場合、労働基準法違反となり、未払い賃金の請求や損害賠償請求を受けるリスクがあるため注意が必要です。
ただし、予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合、その日数を短縮できます。例えば、解雇予告の10日前に10日分の平均賃金を支払えば、解雇予告期間は20日に短縮されます。
クビを回避するための対策
スタッフをクビにするのは心苦しいものです。そもそも歯科衛生士をクビにすることを避けるためには、以下の対策を講じることが重要です。
- 採用時の適性評価
- 教育・研修体制の整備
- コミュニケーションの活性化
それぞれの対策について、さらに詳しく見ていきましょう。
採用時の適性評価
歯科衛生士のクビを回避するには、採用時から適性評価を行い、スキルや人柄のミスマッチを防ぎましょう。具体的には以下のような取り組みが有効です。
- 面接時に実技テストを実施し、基本的なスキルレベルを確認する
- 性格検査などを活用し、コミュニケーション能力や協調性を見極める
- 経歴書だけでなく、専門学校の成績表なども参考にする
- 短期のお試し雇用期間を設けて、職場への適応力をチェックする
このように多角的に歯科衛生士としての適性を見極め、採用後のトラブルリスクを最小限に抑えることが大切です。十分な見極めの上で、採用の可否を慎重に判断していきましょう。
教育・研修体制の整備
歯科衛生士のクビを回避するためには、採用後の教育・研修体制を整備することが大切です。具体的には、以下のような取り組みが効果的でしょう。
- 入社時の研修を充実させる
医院の理念や方針の理解を深める
必要な技術や知識を習得させる
- OJTによる指導を丁寧に行う
先輩スタッフによるマンツーマン指導
日々の業務の中で成長をサポート
- 定期的な研修の機会を設ける
院内勉強会の開催
外部セミナーへの参加推奨
- 自己啓発を支援する仕組みを作る
資格取得の奨励と支援
書籍購入費用の補助
こうした教育・研修体制を整えることで、歯科衛生士一人ひとりの能力を最大限に引き出し、クビのリスクを減らすことができるでしょう。採用・育成・定着のサイクルを上手く回し、強い組織を作ることが求められます。
コミュニケーションの活性化
スタッフ同士や上司とのコミュニケーションを活性化させ、風通しの良い職場環境を作ることも重要です。定期的な面談の実施や、歯科衛生士の意見を積極的に取り入れる姿勢を示すことで、モチベーションの維持・向上を図りましょう。
コミュニケーションの活性化によって、歯科衛生士一人ひとりに寄り添い、課題解決を図ることが重要です。風通しの良い職場環境を整えることでクビを回避し、長く活躍してもらえるでしょう。
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まとめ
歯科医院の経営において、優秀な歯科衛生士の確保は重要な課題です。しかし、採用した歯科衛生士が期待通りの働きをしない場合、クビにせざるを得ない状況も出てくるでしょう。
歯科衛生士をクビにする際は、正当な理由と適切な手続きが不可欠です。技術・能力の不足、勤務態度の悪さ、経営上の必要性など、客観的で合理的な理由に基づいて判断する必要があります。また、解雇予告や解雇理由証明書の発行など、法的手続きを遵守することも重要です。
歯科衛生士のクビは慎重に判断すべきですが、正当な理由があれば可能です。一方で、クビを回避するためには、採用時の適性評価や教育体制の整備、コミュニケーション活性化など、日頃からの取り組みが重要になります。優秀な歯科衛生士の採用でお悩みの際は、ぜひデンタルHR総研にご相談ください。
この記事を書いた人
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