歯科衛生士の「年収の壁」とは?扶養内パートを雇って人材不足解消へ!
2024.12.27歯科医院における慢性的な人材不足は、多くの経営者を悩ませる深刻な問題です。優秀な歯科衛生士を採用し、長く勤めてもらうためには、働きやすい環境づくりが欠かせません。そこで重要なキーワードとなるのが「年収の壁」です。
この「年収の壁」は、従業員にとって、収入増加と社会保険料や税金の負担増とのバランスを考える上で重要なポイントとなります。また、歯科医院の経営にとっても、人材確保と人件費管理の観点から無視できない要素です。
本記事では、歯科衛生士の「年収の壁」について詳しく解説し、それぞれの壁が従業員に与える影響や、歯科医院が取るべき対応策についてご紹介します。
人材不足解消の糸口となる、扶養範囲内で働く歯科衛生士の採用メリットについても見ていきましょう。
従業員にとっての「年収の壁」とは
従業員にとっての「年収の壁」とは、主に税金や社会保険の扶養に関わるものです。年収が一定額を超えると、税金や社会保険料の負担が生じたり、配偶者の扶養から外れたりするといった変化が起こります。
主な壁は以下の通りです。
- 100万円の壁
- 103万円の壁
- 106万円の壁
- 130万円の壁
- 150万円の壁
- 201万円の壁
歯科医院でパート勤務を希望する従業員の多くは、これらの壁を意識して勤務時間を調整しています。それぞれの壁で何が起きるのかを理解し、従業員が最適な働き方を選択できるよう、情報提供を行うことも重要です。
それぞれの年収の壁について詳しく見ていきましょう。
100万円の壁
「100万円の壁」は、住民税の課税が始まるラインです。パート従業員自身に住民税の負担が発生します。
パートやアルバイトとして働く場合、年収が100万円以下であれば住民税は非課税ですが、100万円を超えると課税対象となります。
税金の影響で手取りの増加額が少なくなるため、年収100万円付近で働く人は、住民税の課税を避けるために年収を100万円以下に抑えようと意識することもあるでしょう。ただし、住民税の基準額は自治体によって異なる場合があるので、注意が必要です。
103万円の壁
「103万円の壁」は、所得税の課税が始まり、配偶者控除から配偶者特別控除に切り替わるラインです。従業員自身に所得税の負担が発生し、配偶者の税金にも影響が出始めます。
また、年収が103万円を超えると、健康保険の被扶養者から外れて自身で国民健康保険に加入する必要が生じます。
被扶養者でいるためには、年収が103万円以下であることに加え、勤務時間が週20時間未満であることなどの条件も満たす必要があります。
106万円の壁
「106万円の壁」は、社会保険(健康保険、厚生年金保険)加入の条件を満たすラインです。勤務先の規模や働く時間によっては社会保険の加入義務が生じる場合があります。
具体的には、従業員が週の所定労働時間が20時間以上、かつ、学生でない場合は、勤務先の従業員数が501人以上であれば、年収が106万円を超えると社会保険に加入する義務が生じます。
また、従業員数が500人以下の企業の場合は、週の所定労働時間が30時間以上で、月額88,000円以上の収入がある従業員は、社会保険の加入対象となります。
130万円の壁
「130万円の壁」とは、配偶者(世帯主)の社会保険の扶養から外れるラインです。従業員自身で国民健康保険や国民年金、または社会保険を負担する必要が出てきます。その結果、保険料の支払いにより、130万円未満で働いていたときよりも手取り額が減少することがあるのです。
パートで働く方は、この壁を意識して勤務時間を調整しているケースが多くあります。
150万円の壁
「150万円の壁」は、税金面での優遇措置が減少し始めるラインです。
150万円を超えると、配偶者特別控除は満額受けられなくなり、世帯全体の税負担が増加する場合があります。150万円を超えると控除額は徐々に減少し、201万円を超えるとゼロになります。
201万円の壁
「201万円の壁」とは、配偶者特別控除を受けられる年収の上限のことです。
従業員の年収が201万円以下であれば配偶者特別控除を受けることができ、この控除により、所得税と住民税が軽減されます。しかし、年収が201万円を超えると、控除を受けられなくなり、世帯全体の税負担が増加します。
共働き世帯にとって、税金や社会保険料の負担を軽減できる配偶者控除は大きなメリットであるため、扶養内で働くことを希望する方も多いです。
従業員の年収が200万円だった場合、1万円の昇給で201万円を超え、世帯収入は増えるにも関わらず、手取りが減ってしまうケースもあります。
昇給を望まない、労働時間を増やしたくないという従業員もいるため、歯科医院は従業員の事情に合わせて働き方を検討する必要があるでしょう。
現行制度下の問題点とは
上述したように、「103万円の壁」は、パートスタッフが所得税の課税を受け始めるラインです。一方、「106万円の壁」や「130万円の壁」は社会保険加入の要件となり、これらの壁を超えると、スタッフは税金や保険料の負担が増えます。そのため、多くのスタッフが勤務時間を調整し、収入を壁の範囲内に収めようとする状況が生まれています。
たとえば、時給1,500円のスタッフが「103万円の壁」を意識して働く場合、以下のような制限が発生します。
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さらに、評価に応じて時給を1,700円に引き上げた場合、勤務日数は月6日程度に減少します。このように、優秀な人材であっても「壁」を越えたくないためにシフトを抑制するケースが少なくありません。結果として、医院側が時給引き上げによる評価を行いにくくなり、優秀なスタッフの活用が難しくなるという課題が生じています。
このような状況を改善するには、歯科医院が「年収の壁」の仕組みを正しく理解し、スタッフに対して適切な情報提供を行うことが不可欠です。
「年収の壁」撤廃は歯科医院にとってメリットとなりうる
昨今においては「103万円の壁」が「178万円の壁」に引き上げられる可能性が議論されており、将来的に「年収の壁」が撤廃される動きも注目されています。この変化は、歯科医院をはじめとする多くの職場にとって、メリットとなりうる可能性があるでしょう。
もし「年収の壁」の撤廃が実現すれば、従業員が勤務時間を増やしやすくなり、人手不足解消への道が開けるかもしれません。
例えば、これまで社会保険の適用を避けるために週2日勤務に留めていたスタッフが、週3日以上働けるようになったり、午前中だけ勤務していたスタッフが午後も延長して勤務可能になったりするといった変化が期待できるでしょう。
その他、以下のようなメリットが考えられます。
- 人手不足の解消
シフトの制約が緩和されることで、パートスタッフをより多くの時間帯や日数で活用できるようになります。これにより、人手不足が改善される可能性があります。 - スタッフの評価がしやすくなる
時給や手当を反映しやすくなり、スタッフの頑張りを正当に評価することができます。これにより、スタッフのモチベーションが向上し、定着率の改善にもつながります。 - 常勤スタッフの負担軽減
パートスタッフの勤務時間が増えることで、常勤スタッフの負担が軽減されます。これにより、働き方のバランスが改善し、チーム全体の運営がスムーズになります。 - 患者満足度の向上
スタッフが充実し、余裕を持った運営が可能になることで、患者対応の質が向上します。その結果、患者満足度の向上にもつながります。
なお、育児や介護などの理由で短時間勤務を選んでいたスタッフが働きやすさを感じる環境を整えることができれば、優秀な人材を確保しやすくなるでしょう。
このように「年収の壁」の撤廃は、労働時間の柔軟化をもたらし、歯科医院の運営改善につながるポジティブな影響を生む可能性があります。
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【年収の壁を超える場合】歯科医院がすべき対応
従業員の年収が壁を超える場合、歯科医院は適切な対応をする必要があります。
- 社会保険に加入させなくてはならない
- 正社員登用の検討をしなくてはならない
- 働き方の選択肢や相談体制を整える必要がある
以上の対応について詳しく見ていきましょう。
社会保険に加入させなくてはならない
従業員の年収が一定額を超えた場合、歯科医院は社会保険に加入させる義務が生じます。加入義務が生じる基準は、週の所定労働時間と従業員数で決まります。
従業員数が501人以上の企業では、週の所定労働時間が20時間以上の場合、すべての従業員が社会保険の加入対象です。
従業員数が500人以下の企業の場合は、週の所定労働時間が30時間以上で、かつ月額賃金が8.8万円以上、学生ではないこと、雇用期間が1年以上見込まれることなどの条件を満たす従業員を加入させる必要があります。
歯科医院のような小規模事業所の場合は従業員数が500人以下のケースが多いため、上記の条件を満たす従業員を社会保険に加入させる必要があるでしょう。
加入手続きは、事業主が行う必要があり、手続きを怠ると罰則が適用される場合がありますので注意が必要です。社会保険に加入することで、従業員は健康保険による医療費の負担軽減や、厚生年金による将来の年金受給といったメリットを享受できます。
正社員登用の検討をしなくてはならない
従業員の年収が130万円を超える場合、歯科医院は社会保険への加入義務が生じるだけでなく、正社員登用の検討も必要になります。
これまでパートタイムやアルバイトとして勤務していた従業員が、社会保険に加入するとなると、勤務時間や責任の範囲も変わる可能性があるでしょう。正社員登用を検討することで、従業員の社会的な立場を安定させ、より責任ある役割を担ってもらうことができます。また、正社員登用は、従業員のモチベーション向上やスキルアップにもつながり、結果として歯科医院全体のサービス向上に貢献する可能性もあるでしょう。
従業員にとってより良い労働環境を提供するためにも、正社員登用の検討は重要な経営判断と言えます。
働き方の選択肢や相談体制を整える必要がある
年収の壁を超えるかどうかは、従業員の人生設計に大きく関わってきます。従業員が壁を超えることで損をするケースもあるため、必ずしも収入が増えることが良いとは限りません。従業員がそれぞれのライフステージに合わせて働き方を選択できるように、歯科医院は多様な働き方の選択肢を用意する必要があります。
例えば、パートタイム勤務や時短勤務制度の導入、週4日勤務の導入などを検討したり、従業員が安心して相談できる窓口を設けたりするのもおすすめです。
社会保険や税金に関する疑問、扶養から外れることへの不安など、従業員が抱える悩みはさまざまでしょう。相談窓口を設置することで、従業員は専門家から適切なアドバイスを受けることができ、安心して働き続けることができます。
従業員にとって働きやすい環境を整えることは、優秀な人材の確保と定着につながります。歯科医院の成長のためにも、従業員の働き方への配慮は不可欠です。
扶養範囲内で働く歯科衛生士を採用するメリット
扶養範囲内で働く歯科衛生士を採用することは、歯科医院にとってさまざまなメリットがあります。
- 求人に応募する人数が増える
- 人件費を抑えられる
- 離職率が低下する
以上のメリットについて詳しく見ていきましょう。
求人に応募する人数が増える
扶養の範囲内で働ける職場を求めている人は多く、求人に応募してくる人数も増える可能性があります。特に、子育て中の主婦層などは、扶養内で働くことを希望する傾向があります。
扶養の範囲内であれば、配偶者の社会保険の被扶養者でいられるため、自分で社会保険料を支払う必要がありません。そのため、家計の負担を抑えながら働くことができます。
また、子どもが小さいうちは、急な病気や学校行事などで仕事を休まなくてはいけない機会も多いため、フルタイムで働くことが難しい場合もあるでしょう。扶養内であれば、勤務時間や日数を調整しやすく、家庭と仕事を両立しやすいというメリットがあります。
このように、扶養内で働きたいというニーズは多く、求人募集を出す際に「扶養範囲内OK」と記載することで、応募してくる人数が増えることが期待でき、より優秀な人材を確保できる可能性も高まります。
人件費を抑えられる
扶養範囲内で働く歯科衛生士を採用する大きなメリットの一つは、人件費を抑えられることです。人件費を抑えることで、歯科医院の経営を安定させることができます。
扶養範囲内であれば、歯科医院は社会保険料の事業主負担分を支払う必要がありません。社会保険料の事業主負担分は、従業員の給与総額の約15%にものぼります。そのため、扶養範囲内で働く歯科衛生士を採用することで、この社会保険料の事業主負担分を大幅に削減できます。
また、正社員登用する必要がないため、賞与や退職金などの費用が発生せず、人件費を大幅に抑えることができます。
離職率が低下する
扶養の範囲内で働くことを希望する歯科衛生士を採用すると、離職率が低下する可能性があります。歯科衛生士の多くは女性であり、結婚や出産といったライフイベントを経験する人も少なくありません。そのため、家庭と両立しながら働ける職場を求める傾向があります。
扶養の範囲内であれば、労働時間や日数を調整しやすく、家庭の都合に合わせて働きやすいというメリットがあります。例えば、子育て中の女性であれば、子どもの保育園のお迎え時間に合わせて退勤できる職場を求めているケースが多いです。また、配偶者の扶養から外れない範囲で働くことを希望する人も一定数います。
このようなニーズに応えることで、従業員の満足度が向上し、離職率の低下につながるのです。扶養の範囲内で働ける求人は、潜在的な労働力を活用できる有効な手段と言えるでしょう。
歯科衛生士の離職率が高くお悩みの方は、以下の記事もぜひご覧ください。
『歯科衛生士の離職率が高い理由とは?定着率を高めるためには採用から見直すべき!』
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まとめ
歯科衛生士の「年収の壁」は、従業員だけでなく歯科医院にとっても重要な問題です。従業員は、年収が一定額を超えると税金や社会保険料の負担が増え、手取り額が減少する可能性があります。一方、歯科医院は、社会保険料の負担増や人材確保の難しさといった課題に直面する場合もあるでしょう。
しかし、「年収の壁」が引き上げられることで、パートスタッフが収入を増やしつつ、柔軟な働き方を実現できる可能性が広がります。また、歯科医院側にとっても、人材不足の解消やスタッフの有効活用といったメリットが期待されるでしょう。
この問題への政策的な改善を注視しながら、歯科医院が抱える人材不足の課題を解決するためには、従業員のニーズを理解し、働きやすい環境の整備が不可欠です。歯科医院と従業員、双方にとって最適な雇用環境の実現を目指し、より良い歯科医療サービスの提供につなげましょう。
この記事を書いた人
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