【医院向け】「労働条件通知書」と「雇用契約書」についての解説〜歯科衛生士・歯科助手・歯科医師共通〜

2022.06.20

こんにちは、土屋です。

新入社員が入職することが決まったら、法的には、社員と医院の間で雇用契約が成立することになります。その際に、医院が採用者に作成・交付する書類として「労働条件通知書」と「雇用契約書」の2種類があります。2つの書類は一見すると同じ内容のものに思えますが、実は発行義務や様式などに違いがあります。

今回は、労働条件通知書と雇用契約書の概要と違い、それぞれの役割と発行方法について、またはその必要性と書類がないことでのリスクについて、医院側がぜひ知っておきたい情報をまとめました。

上場企業の人事部長を15年以上勤め、歯科衛生士の採用を560名以上してきた筆者の経験を踏まえて解説していきます。

「労働条件通知書」と「雇用契約書」とは?

労働条件通知書とは?

労働条件通知書とは、労働契約の期間や賃金といった労働条件に係る事項を記載した書類(2019年4月以降は電磁的方法も含む/後述)のことです。労働基準法第15条では、使用者が労働者を雇用する際、労働者に対して労働条件を明示することを義務づけています。

労働条件の明示は「パートタイム労働法」や「労働者派遣法」にも定められており、たとえアルバイト・パート・派遣社員といった場合でも、必ず労働条件通知書を作成するようにしなければなりません。

雇用契約書とは?

労働者を雇用する時に、事業主と労働者の間で交わす契約書です。2部作成し署名・押印したあと、雇用者と労働者がそれぞれ保管するのが一般的です。

雇用契約書は、雇用主と労働者が労働条件について互いに合意したことを証明するための書類です。内容は労働条件通知書とほぼ同じで、労働契約の期間や就業場所、賃金などに関する事項が記載されています。

ただ、労働条件通知書が雇用主から労働者へ「一方的に交付されるもの」であるのに対し、雇用契約書は「双方が合意していることを証明するもの」です。

「労働条件通知書」と「雇用契約書」の違い

以上のように、労働条件通知書と雇用契約書は「双方の合意が必要であるか」という点で異なっています。

また、労働条件通知書は法律で作成・交付が義務づけられていますが、雇用契約書は法律上義務づけられているものではありません。端的に言うと、労働条件通知書さえ作成・交付すれば、雇用契約書は必ずしも発行しなくて良いものとされています。

以下に表でまとめましたので、確認ください。

  労働条件通知書 雇用契約書
適用される法律 労働基準法
パートタイム労働法
労働者派遣法
民法
書面締結の必要性 義務
(2019年4月1日からは電磁的方法も含む)
任意
(推奨・罰則無し)
合意の必要性 雇用者側からの一方的な交付 雇用者と労働者での合意が必要

ここまで読んで、「雇用契約書を取り交わすことは義務ではないから、発行しなくても良いのではないか」と思った方もいるのではないでしょうか。

確かに「雇用契約書の発行は義務付けられていない」と前述しましたが、雇用主から一方的に交付される労働条件通知書だけでは、労働者の合意を物理的に確認することはできないため、注意が必要です。

それでも「雇用契約書」は作成したほうが良い

法的には雇用契約書の作成は不要ではあります。しかし、トラブルを避けるためにも、必ず作成しておくほうが無難です。

もし雇用契約書が無いと「労働条件通知書を交付された覚えがない」「当初の契約と労働条件通知書の間に食い違いがある」などと訴えられ、雇用主側が不利になってしまうおそれがあります。

このようなトラブルやリスクは、医院経営をする上で少なからず存在します。たとえ法的な義務はなくても、雇用主と労働者の双方が労働条件に合意したことを示す雇用契約書も作成・交付するのが最善です。

労働条件通知書と雇用契約書は兼用も可能

労働条件通知書のフォーマットは特に定められていませんので、医院によっては労働条件通知書と雇用契約書を兼ねた「労働条件通知書兼雇用契約書」を発行しているケースが多いです。歯科医院においては、契約の手間や回数も煩雑でなく、且つ、リスクヘッジもできるため、こちらの方法をおすすめします。

なお、雇用契約書の社員の住所や氏名の欄は、あらかじめ医院がPC入力するのではなく、本人に直筆で記入してもらうことを推奨します。医院がPC入力したものに押印だけしてもらう形ですと、あとで揉めた際などに「医院が勝手に認印を押しただけで、そんな契約書について私は知らない」と言われてしまうリスクがあります。

労働条件通知書の発行方法・記載内容

労働条件通知書のフォーマットは決まっていませんので、各医院によって様々です。しかし、法律で明示することが義務づけられている労働条件の「絶対的明示事項」の記載は必須となります。

なお、書面による交付は義務づけられていませんが、「相対的明示事項」も労働者に対して明示する必要があります。相対的明示事項は口頭での通知も可とされていますが、労使間でトラブルが起こるリスクを考えると、なるべく書面で通知するのが理想です。

労働条件の絶対的明示事項、および相対的明示事項は以下の通りです。

絶対的明示事項 相対的明示事項
①労働契約の期間
※有期契約労働者の場合、契約期間終了後の契約更新の基準に関する内容も記載
②就業場所
③従事すべき業務の内容
⑤始業・終業の時刻
⑥所定労働時間を超える労働の有無
⑦休憩時間、休日、休暇
⑧労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
⑨賃金の決定、計算及び支払いの方法
⑩賃金の締め切り及び支払いの時期
⑪昇給(書面による明示は不要)
⑫退職に関する事項(解雇事由を含む)
①退職手当の定めが適用される労働者の範囲②退職手当の決定・計算・支払い方法、支払時期
③臨時に支払われる賃金、賞与、各種手当てならびに最低賃金額に関する事項
④安全及び衛生に関する事項
⑤職業訓練に関する事項
⑥災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑦表彰及び制裁に関する事項
⑧休職に関する事項

パートやアルバイトなどの非常勤スタッフに対しては、以上の項目に加えて、以下4つの事項の記載が義務づけられています。
① 昇給の有無
② 退職手当の有無
③ 賞与の有無
④ 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口

雇用形態によって「絶対的明示事項」に多少の違いがあるので、労働条件通知書を作成する際は、雇用形態別に書面を用意しておくことをおすすめします。

テンプレートの活用がおすすめ!

労働条件通知書の用意がそもそもない、どんな書式にすればいいの?という場合は、弊社で用意しているテンプレートを利用するのがおすすめです。Word形式のため、適宜手を加えることも可能ですので、こちらのフォーマットをアレンジしてオリジナルの労働条件通知書を作成してみてください。
※常勤・非常勤どちらにも対応しています。

下記よりダウンロードしてお使いください。

労働条件の通知が電磁的方法でも可能に(2019年4月1日~)

労働条件通知書の「絶対的明示事項」は、これまで紙での交付に限られていました。しかし、労働基準法施行規則の改正にともない、2019年4月1日よりFAXやメール、SNS等を使った労働条件の明示も可能になりました。

ただし、紙以外の方法で労働条件を明示するには、以下2つの条件を満たしている必要があります。

① 労働者がFAXやメール、SNS等での労働条件明示を希望した場合
② 出力して書面を作成できるもの

採用が決まった時点で、労働条件通知書の発行方法について確認を取っておくと良いでしょう。
なお、メールやSNS等で労働条件を明示する場合は、印刷やファイルの保存ができるような、添付ファイルでデータ送信するのが基本です。

労働者が希望していないのに紙以外の手段で労働条件を明示すると、労働基準関係法令の違反となり、最高で30万円以下の罰金となることもありますので注意しましょう。

具体的な通知の手順について

前述の通り、労働条件の通知はオンラインで完結できるようになりました。しかし、ただ一方的に送りつけるのではなく、ミスマッチをなくす意味でも、必ず対面で口頭での説明を含めて通知をすることをおすすめします。

また、当たり前ですが、労働条件通知については、必ず入職前に行ってください。入職後にはじめて通知する医院様がおりますが、入職後のトラブルに繋がる可能性が高まりますので、絶対にやめましょう。

<具体的な進め方>
1.採用内定決定
2.労働条件通知書作成
3.来院いただくか、Zoomなどのオンラインツールを使った「条件通知面談」を設定【オススメ!】
4.上から順を追って読み上げていく
5.最後に求職者から質問を受け付ける
6.双方納得の上、署名捺印する

採用代行サービスの活用も視野に

人材紹介のようにお任せできて、且つ、なるべくミスマッチを減らして確実に採用したいという医院様は、歯科医院の採用業務をまるごとお任せできる「採用代行サービス」も一つの選択肢としてご検討ください。

弊社では、採用内定後の条件通知や口説きなども含めてすべてを一括で受託できます。料金も様々なニーズに合わせて選べる3つの形態を用意しています。

興味がございましたら、お気軽にお問合せください。

以上です。

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